2006-12-15 [長年日記]
λ. 著作権保護期間の延長問題を考える国民会議第1回公開シンポジウム
心情の問題は議論するだけ不毛だと思うので、公共政策としての議論をもっと聞きたかった。あと、「いわゆる作家の作品だけでなく、論文や新聞記事も全て著作権法の影響を受ける」という話は忘れてはいけないと思った。
ちなみに、個人的な意見は田中辰雄氏とほぼ同じ。
個人的意見
そもそも、著作権法第1条(目的)に「著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」と謳われているように、著作権制度の究極的な目的は著作者個人の保護ではなく、「文化の発展」という社会全体の利益であり、これを実現するのに最も適した制度を選択すべき。
「文化の発展」というのは抽象的で何を指しているか曖昧だけど、私は「著作物によって生み出される純便益がより大きな社会」を「より文化の発展した社会」と定義するのが良いのではないかと思っている。まあ中立的な定義だと思うし、比較も出来るし。で、著作物の便益とは、それを消費することによって得られる効用や、それを利用することによって間接的に生じる波及的な便益のはず。(ちなみに権利から得られる収入自体は別に便益ではない。生産者にとっての収入は利用者にとっての費用で、社会全体でみれば±0だし)
著作権保護期間の延長によって生産者の権利を大きくする場合のことを考えると、「著作物の消費や利用への制限が強くなるので、個々の著作物から生じる便益は減少する」という効果と、「生産者が得られる利益が増えるため、著作物の生産が増える」という二つの効果があり、どちらの影響が大きいかによって社会全体の便益は大きくなる場合もあれば小さくなる場合もある。そのどちらが起こるかを判断するデータがなければ、賛成も反対も出来ないなぁ。
現状では判断できないけど、一度延長すると短縮は難しいから、延長によって社会全体の便益が増加するという定量的データがない限りは延長には慎重であるべき。
また、より根本的に著作権制度を考えるのなら、小熊さんが以前に書いていた「無方式で発表後30年、その後は文化庁に登録(要登録料)で、最大著者の死後70年(勿論、特許権と同様に、時間の経過と共に登録料が加算される)という制度」のような制度も検討すべきだと思う。
λ. 著作権の価値は著作権保護期間延長でどれだけ増加するか?
上のシンポジウムのレッシグの話ではノーベル賞経済学者がどうとか言っていたが、試しに簡単な数字で計算してみる。
作品は著作権保護期間内は毎年1単位の印税収入をもたらすとし、作品公表後20年後に作者が死亡するとするものとする。また、割引率は3%とする。そうすると、著作権保護期間が死後50年の場合、作者の生前20年間と死後50年間の印税の現在価値の合計は ≒ 29 。保護期間が死後70年の場合生前20年間と死後70年間の印税の現在価値の合計は ≒ 31 。この場合、保護期間を50年から70年に延ばせば、6.5%くらい著作権の価値が上昇することになる。
けど、実際には90年間コンスタントに印税が入り続ける作品なんて存在するはずも無く、時間の経過と共に印税は減少するから、実際の価値の上昇はこれより遥かに低いだろう。著作権の価値に影響する他の要因に比べれば、保護期間延長による価値の増加は結局ノイズ程度だろうと思う。クリエイターに与えるインセンティブは限定的だろうし、遺族の生活保障という話も怪しい。
λ. 今日の「言語の意味論」
- 時制(tense)とアスペクト
- Aktionsart (動作相, 為相, 動詞様態, 動作様態, 動作様式)
- 裸の複数名詞句(bare plural)とCarlsonオントロジー(存在論)
- 中立叙述と総記
- 名詞句化(Nominalization)
- ロバ文
- DRS
λ. 今日の向井研
- Kleisli圏
- 自然変換の水平合成
- 自然化?