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日々の流転


2004-10-14 [長年日記]

λ. 杉原千畝は素晴らしいと思うが……

(『The story of Chiune Sugihara: Visas for 6000 Lives』への感想をIRCから転載)

杉原千畝が発行したビザにより多くのユダヤ人が救われたという話は、日本人 であれば一度は耳にしたことがあるだろう。私も杉原千畝の事を始めて知った ときには感動したし、自らの信念を貫き通し多くの命を救った彼を、同じ日本 人としてとても誇りに思っている。ただ、残念ながらこの本にはあまり感動す ることが出来なかった。何故ならば、この本の記述は客観性を欠いていると思 えてしまったからである。

たとえば、「In the old days Jewish people had all lived in their own land, the Hebrew Kingdom. In 70 A.D., however, the kingdom fell, and they lost their homeland.」とあるが、この記述はミスリードを狙っている としか思えなかった。

ユダヤ人とは一般に「母親がユダヤ人であるかユダヤ教に改宗した人」のこと を指すのだ。ヘブライ王国の時代にはほとんどのユダヤ人は当然そこで生活し ていただろう。だが、現在のユダヤ人のすべてがその子孫というわけではない のである。例えば8世紀にはトルコ系民族のハザール汗国で大規模なユダヤ教 への改宗があったし、セム族が白人系ではなかったにも関わらず現在のユダヤ 人に白人系が多いことからも明らかであろう。

さらに、当時の国際情勢について深く触れずに日本とドイツを一方的に悪とす る単純な歴史観に基づいて書かれているのも非常に不愉快であった。このよう な態度は歴史から何も学ばないに等しいと私は思っている。私はこの本を人に 薦めようとは思わない。

それはそうと、ナチスによって辛酸を味わったユダヤ人たちが、今パレスチナ の地で行なっていることを思うと、人類の業の深さを感じずにはいられない。 もし杉原千畝が生きていたらどう思っただろうか。

Quotation
"Nothing is so precious as life." (p.36)
Excellent Translation
「命ほど大切なものなど、何も無い」
Explanation
杉原千畝が常に語っていた言葉。普通の人が言っても陳腐な言葉と思うだけか も知れない。だが、自分のキャリアそして命すら危機にさらしながら困難に耐 え多くの命を救った杉原千畝の言葉と思うと、重みを感じずにはいられないの だ。
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