2004-10-29 [長年日記]
λ. 「進化論」の起源
(『The Origin of a Theory —ダーウィンとその時代』の感想をIRCから転載)
この本は専門用語なども多く、私には少々難しい本だったが、とても面白かった。
この洒落たタイトル“The Origin Of a Theory”はもちろんダーウィンの著書 “The Origin Of a Species”のもじりであり、進化論の誕生と進化を、生物 のそれになぞらえて、ダーウィンを中心として描いている。
我々が科学を学校等で学ぶとき、学びやすく整理された形で学んでいる。しか し、当たり前だが、科学は学校で学ぶような形で発展してきたのではない。進 化論もまた例外ではない。生物が神によっていきなり今ある姿で造られたので ないのと同様に、進化論もいきなり今ある姿で誕生したのではないのだ。
進化論のダーウィン以前の一つの起源はダーウィンの祖父エラズマス・ダーウィ ンの『動物論』、ラマルクの理論(獲得形質居伝説)などに求められる。そして、 ダーウィンはビーグル号の航海に博物学者として同行した際の観察と、近代地 質学の父とよばれるライエルの地質学等から、理論の着想を得た。また、マル サスの『人口論』にも触発されていたそうであり、この点には意外であり非常 に驚かされた。その点について本書では以下のように書かれており、印象に残っ た。なおここでのheとはダーウィンのことである。
"One may say", he now concluded, “there is a force like a hundred wedges trying [to] force every kind of adapted structure into the gaps in the economy of nature, or rather forming gaps by thrusting out weaker ones.” This idea of a “struggle for existence” was not new; it had been present in the wrigings of Malthus, Paley, Lyell, the Swiss botanist Augustin de Candolle (1778-1841) and others.
ところで、アイディアが最初に登場するときには荒削りであり、そして試行錯 誤があり、整理され、やがて我々の知る形になっていくと私が考えている。ダー ウィンの進化論もまさにそうして生まれたのである。彼の理論には批判も多かっ たし、宗教的な攻撃を受けることもしばしばであったが、結局のところ「生き 残った」。そして、生き残ることが出来る理論は、現実を最もよく説明する理 論、言い換えればもっとも「現実」に適応した理論だけなのであろう。今日ダー ウィンの理論が修正され洗練されつつも生き残っているのは、それが現実を最 もよく説明するからであろう。このことを考えると私はとても愉快だ。
それはそうと、この本の著者はドーキンスが好きなようで、「まえがき」にも 参考文献にもドーキンスの著書が挙がっている。ドーキンスが稀代のサイエン スライタであることは誰もが認めるところだろうが、この話題でグールドが触 れられていないのは、個人的には少々納得がいかないところである。そこで、 私からは『ドーキンス対グールド 適者生存の戦い』(原題: “Dawkins vs. Gould : Survival of the Fittest”)を薦めておきたい。
- Quotation
- Although Darwin did not, and could not, have caused such a major change single-handedly, he will always stand for the transformation and enrichment of man's understanding of his place in nature.
- Excellent Translation
- ダーウィンはこれほど大きな変革を一人でしたわけでも一人で出来たわけでもないが、常に自然の中での人間の位置づけの認識の変化と強化の象徴であるだろう。
- Explanation
- 本書の結びのことば。結局のところ、進化論が最もインパクトを与えたのは、自然の中での人間の位置づけに関する認識だったのだ。