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日々の流転


2008-03-18 [長年日記]

λ.Category Theoretical Semantics for Pregroup Grammars” by Anne Preller

pregroup grammar における導出の圏論的な意味論。Lambek Pregroup - ヒビルテ (2005-01-07) で書いたのは大体あっていて、自由コンパクト2-圏(free compact 2-category)というものを考える。

2-圏がコンパクトであるのは全ての1-セルが左右の随伴を持つとき。 で、圏Cから生成される自由コンパクト2-圏T(C)は、0-セルをただ一つ持つ2-圏で、Cの対象を1-セルとし、Cの射を2-セルとして自由生成されるコンパクト2-圏。 T(C)の1-セルはCの対象の列でpregroupの要素に対応し、2-セルは一種のラベルつきグラフで pregroup grammar における導出に対応している。

例えば、以下の図は s : C→B, r : B→A, t : A→D を圏Cの射としたときの、ABlBClCllBlAlBC → DBCl という導出の例。

[導出の例の図]

コンパクト閉圏との関係

ところで、コンパクトと聞くと、檜山さんがよく紹介しているコンパクト閉圏(compact closed category)を連想するわけで、確かに定義も似ているように思う。ので、ちょっと考えてみた。

まず、0-セルがただ一つであるような2-圏は1-セルの結合をモノイド演算と思うと厳密モノイダル圏(strictly monoidal category)になっている。この厳密モノイダル圏に更に1-セルの左右の随伴を加えたものがここで考えているコンパクト2-圏。一方、(厳密な)コンパクト閉圏は厳密モノイダル圏に1-セルの左随伴と対称性を加えたもの。 つまり、檜山さんは「コンパクト閉圏 - Chimaira.org」で「なんで『左』?」と書いていたが、この枠組みで考えると1-セルの左随伴にちゃんとなっている。

さらに、厳密モノイダル圏としてのコンパクト2-圏に対称性σを追加すると、(厳密な)コンパクト閉圏になるのは定義からして明らか。逆に対称性があればAの左随伴Alと右随伴Arは同じになるので、(厳密な)コンパクト閉圏は実際には左随伴だけでなく右随伴を持っていることになり、対称性を持つコンパクト2-圏になっている。

そう考えると、(1-セルをただ一つ持つ)コンパクト2-圏は(厳密な)コンパクト閉圏の非対称版と考えることが出来そうだ。 檜山さんは「コンパクト閉圏 - Chimaira.org」で「左随伴は、必ずしも対称でないモノイド圏でも定義できる(が、非対称ケースで意味があるのだろうか? 僕はよく分からない)」と書いていたが、対称でないモノイダル圏における左随伴にも意味があったようだ。