2007-11-24 [長年日記]
λ. SPASSで知識の論理を使って論理パズルを解く?
最近、論理パズルを解くのに使える様相論理のツールはないかと探していたのだけど、SPASSは結構使えそうな感じなので、SPASSで知識の論理を使って論理パズルを解いてみようと思った。
題材は、以前に「トランプの和と積のパズル」と様相論理で形式化したトランプの和と積のパズルに挑戦しようと思ったのだけど、いきなり挑戦するにはちょっと複雑すぎるので、もう少し簡単な問題にする。 何にしようか少し迷ったが、情報科学における論理 (情報数学セミナー)(小野 寛晰) の p.187 「論理パズルと知識の論理」で紹介されている、赤いぼうし (美しい数学 (5))(野崎 昭弘/安野 光雅) の話を使うことにした。この問題を非常に簡単に説明すると以下のようになる。
AさんとBさんがいて、少なくとも一人は赤い帽子を被っていて、赤い帽子を被っていない人は白い帽子を被っている。 ただし、二人とも他人の帽子の色は分かるが、自分の被っている帽子の色は分からない。 そして、Aさんが「自分の帽子の色が分からない」と発言した。 このとき、Bさんの被っている帽子の色は何か? そして、Bさんは自分の被っている帽子の色が分かるか?
ちょっと考えると、Bさんの被っている帽子の色が赤で、そしてBさんもそのことを知ることが出来ることがわかる。これをSPASSで表現すると以下のようになる。 ここでコマンドラインオプションの -EMLTheory=7 は全ての様相がS5様相であること、すなわち到達可能性関係が同値関係であることを指定している。
% SPASS -EMLTheory=7 -DocProof RedHat.dfg begin_problem(RedHat). list_of_descriptions. name({* Red Hat *}). author({* Masahiro Sakai *}). status(unsatisfiable). description({* 「赤いぼうし」の問題 *}). end_of_list. list_of_symbols. predicates[ (a,0) % Aさんの帽子が赤 , (b,0) % Bさんの帽子が赤 , (Ka,0), (Ra,2) % Aさんが知っているという様相 , (Kb,0), (Rb,2) % Bさんが知っているという様相 , (E,0), (Re,2) % 二人とも知っているという様相 , (C,0), (Rc,2) % 共通知識であるという様相 ]. translpairs[ (Ka,Ra), (Kb,Rb), (E,Re), (C,Rc) ]. end_of_list. list_of_special_formulae(axioms, eml). % [E]P <-> [Ka]P∧[Kb]P formula( forall([x,y], equiv(Re(x,y), or(Ra(x,y), Rb(x,y)))) ). % [C]P <-> [E][C]P formula( forall([x,y], equiv(Rc(x,y), exists([z], and(Re(x,z), Rc(z,y))))) ). % どちらかの帽子は赤である prop_formula( box(C, or(a, b)) ). % AさんはBさんの帽子の色を知っている prop_formula( box(C, or(box(Ka, b), box(Ka, not(b)))) ). % BさんはAさんの帽子の色を知っている prop_formula( box(C, or(box(Kb, a), box(Kb, not(a)))) ). % Aさんは自分の帽子の色が分からない prop_formula( box(C, not(box(Ka, a))) ). prop_formula( box(C, not(box(Ka, not(a)))) ). end_of_list. list_of_special_formulae(conjectures, eml). % Bさんは「自分の帽子の色は赤である」ことを知っている prop_formula( box(Kb,b) ). end_of_list. end_problem.
これをSPASSに証明させると証明に成功し、この推論が正しいことが分かる。 ただし、box(Kb,not(b)) を証明させようとすると止まらなくなるようなので、推論が正しいことを確認することは出来ても、問題を解くのには使えないかも。
【2007-12-10追記】 上記の定義には問題があることに気がついた(止まらない原因に関係があるかは不明)。 [C]P は F(X) = [E](P×X) の単なる不動点ではなく最大不動点である必要があるようだ。 これは一階述語論理に翻訳すると [C] の到達可能性関係 Rc が [E] の到達可能性関係 Re の推移閉包(transitive closure)になっていることに対応するのだが、これが表現できていない。 色々考えたが、どうも推移閉包は一階述語論理では表現できないようだ。
【2007-12-16追記】 上記では公理には各前提条件に共通知識の様相をつけていたけど、これは不要だった。 何故ならば、共通知識の様相付きの論理式から導出できることは全部、様相の付いてない論理式からも「必然化(necessitation)」を使って導出できるため。 これは Mechanizing common knowledge logic using COQ (c.f. 20071217#p01)を読んで知ったのだけど、何故こんな簡単な事を自分気付けなかったのだろう……orz あと、共通知識の様相を使わなくした場合でも停まらないのは変わらなかったので、共通知識の様相の形式化は停まらないのには関係なかった。