2008-10-03 [長年日記]
λ. 状態ベクトルと統計演算子
考えたことメモ。
線形写像 A : H→H は以下の条件を満たすとき統計演算子(statistical operator)と呼ぶ。
- 有界線形(bounded linear)
- ある c が存在して、任意の x∈H について ‖Ax‖ ≦ c‖x‖
- 正値(positive)
- 有界線形でかつ任意の x∈H について 〈x, Ax〉 ≧ 0
- 自己随伴(self adjoint)
- A† = A
- トレースクラス(trace class)
- tr A ≡ ∑k 〈Avk, vk〉 が任意の正規直交基底 {vk} について絶対収束する(absolutiely convergent)。
量子力学では H を可分なヒルベルト空間として、統計演算子 H→H を系 H の状態と定義するそうだ。
状態ベクトル u∈H に対して、ρ : H→H を ρx = 〈u, x〉u と定義すると、ρはちゃんと統計演算子になっている?
線形性
- ρ(x+y) = 〈u, x+y〉u = (〈u, x〉 + 〈u, y〉)u = 〈u, x〉u + 〈u, y〉u = ρx + ρy
- ρ(ax) = 〈u, ax〉u = a〈u, x〉u = aρx
有界線形
‖ρx‖ = ‖〈u, x〉u‖ = |〈u, x〉|‖u‖ ≦ ‖u‖‖x‖‖u‖ = ‖u‖2‖x‖ 。
正値性
〈x, ρx〉 = 〈x, 〈u, x〉u〉 = 〈u, x〉〈x, u〉 = 〈u, x〉〈u, x〉* = |〈u, x〉|2
自己随伴
〈x, ρy〉 = 〈x, 〈u, y〉u〉 = 〈u, y〉〈x, u〉 = 〈x, u〉〈u, y〉 = 〈u, x〉*〈u, y〉 = 〈〈u, x〉u, y〉 = 〈ρx, y〉 より ρ† = ρ
エルミート内積を双線形だと思い込んでいて、計算が合わないことに一週間くらい悩んでしまったorz 実際は一方の引数に関して線形で、他方の引数に関しては反線形。
あと、一般に正値な有界線形写像は自己随伴になっているのだけど、それはまた別に書く。
トレースクラス
tr ρ = ∑k 〈ρvk, vk〉 = ∑k 〈〈u, vk〉u, vk〉 = ∑k 〈u, vk〉*〈u, vk〉 = ∑k|〈u, vk〉|2
これが収束するのは有限次元だと自明だけど、無限次元だとどうやって示すんだろう?
【2008-10-06 追記】 無限次元であっても、ベクトル u は基底の有限個の要素の線形和で書くことが出来るということを教えてもらった。 そうすると、|〈u, vk〉| は有限個を除いて全て 0 になるため、やっぱり収束する。
λ. 正値な有界線形写像は自己随伴
メモ。
任意の x について 〈x, Ax〉 が実数とする。 このときAが自己随伴であることを示す。
〈x+y, A(x+y)〉 = 〈x, Ax〉 + 〈x, Ay〉 + 〈y, Ax〉 + 〈y, Ay〉 の虚部を考えると、〈x+y, A(x+y)〉, 〈x, Ax〉, 〈y, Ay〉 は実数なので、0 = Im〈x, Ay〉 + Im〈y, Ax〉 となり、Im〈Ax, y〉 = Im〈x, Ay〉 となる。
同様に 〈x+iy, A(x+iy)〉i = 〈x, Ax〉i + 〈x, Aiy〉i + 〈iy, Ax〉i + 〈iy, Aiy〉i = 〈x, Ax〉i - 〈x, Ay〉 + 〈y, Ax〉 + 〈y, Ay〉i の実部を考えると、〈x+iy, A(x+iy)〉i, 〈x, Ax〉i, 〈y, Ay〉i は純虚数なので、0 = -Re〈x, Ay〉 + Re〈y, Ax〉 となり、Re〈x, Ay〉 = Re〈Ax, y〉 となる。
よって〈Ax, y〉 = 〈x, Ay〉 なので、A† = A 。