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日々の流転


2006-10-05 [長年日記]

λ. 一票の格差5.13倍は「違憲ではない」との判決

それはそうと、新聞記事では一票の影響力の比として「議員一人当たりの有権者数」の比が何の説明もなく使われていたりするが、それが本当に影響力の比になっているのだろうかと気になった。協力ゲームの世界では、持っている票数と影響力が比例するとは限らなかったと思うし。

Tags: 時事

λ. Folds, Church Encodings, Builds, and Short Cut Fusion for Nested Types: A Principled Approach by Neil Ghani and Patricia Johann

<URL:http://lambda-the-ultimate.org/node/1717> より。 Build, Augment and Destroy, Universally の形式化を関手圏に適用すれば nested types に fold/build (hfold/hbuild) が定義できるという部分はあまりに当たり前過ぎる。 けど、generalized continuation の概念を使って hfold から gfold を定義している部分は読む価値があった。圏論的にはこの構成はKan拡張(Kan Extension)になっている。

【2006-12-23 追記】 T:M→A, K:M→C を関手として、\[Rc = \varprojlim((c\downarrow K) \stackrel{Q}{\to} M \stackrel{T}{\to} A)\] が任意のcについて存在すれば、この R が right Kan extension of T along K (RanK T) になっている(詳しくは Categories for Working Mathematician の p.237 の Theorem 1 (Right Kan Extension as a pointwise limit) を参照)。そこで、newtype Ran k t c = Ran{ iran :: forall x. (c -> k x) -> t x } という型で表現している。

【2008-01-18 追記】 そういえば論文のファイルが消えちゃってるな。 POPL 2007 に reject されて、Initial Algebra Semantics is Enough! として、TLCA 2007 に投稿しなおしたのかな。

関連

Folds, Church Encodings, Builds, and Short Cut Fusion for Nested Types: A Principled Approach | Lambda the Ultimate

Tags: 論文

λ. 日本から見た日韓・日朝関係

リージョナルアナトミー論Eでの、伊藤直樹外務省国際協力局総合計画課長(前北東アジア課長)の講演。

途中でラップトップのバッテリーが切れたこともあり、ほとんどメモを取っていなかった。実は夏休み中にΩ11にも座席にコンセントが設置されていたのだけど、設置されている位置が机の裏(?)だったので気づいてなかった。 設置場所は <URL:http://clip.sfc.keio.ac.jp/article.jsp?id=news06100603> みたいな感じ。

なお、次週は趙泰永(チョ・テヨン)在日韓国大使館参事官の講演「韓国から見た日韓・日朝関係」なので、そちらも参照のこと。

以下メモ(書きかけ)。

この地域を見る視座・視点

  1. 朝鮮半島は日本の安全保障に直接関わる地域
    • 非常に重要な地域。
    • 安全保障ということなので、米国との同盟や米国との利害の共有を前提として外交政策が展開されている。
  2. 日本の主権や人権がからむ事項が多い。
    • 拉致問題、領土の問題(竹島)。
    • 日本独自の外交課題の追求が必要な地域。
  3. 東アジア全体に、安定・繁栄のために、どういう枠組みを作っていくのか。
    • 最近では東アジア共同体ということもよく言われる。将来の東アジア地域をどうするのかを見据えながら、この地域の安定ということを考えいかなくてはいけない。
    • 韓国とは長きにわたって価値観を共有(「自由」「民主主義」「市場経済」)。そういう国との関係をどうやって軸にして、東アジアやアジア全体をどう捉えていくのか。
    • この地域はまだまだ非常に不安定で、冷戦の残滓とも言える構造が残っている。メジャープレイヤと呼ばれる国の役割をどうするのか、その間のパワーバランスをどうするのか、まだまだ古典的な外交的な構図が残っている。
  4. 依然として戦後処理が残っている地域
    • 韓国とは1965年に国交正常化したが、40年経っても依然として解決されていない部分もある。
    • 北朝鮮とはまだ国交正常化できていない。不正常な状態が60年続いている。

日韓関係の実態

最近、日韓の関係が良いと見るべきか、悪いと見るべきか、なかなか難しいところがある。ただ、色々な数字の実態で見ると、日韓関係は決して悪い状況には無い。人の行き来も、投資額も増加している。

  • 北東アジアの貿易構造
    • 2000年の段階では3つの貿易関係はほとんど同じだった。
    • この4,5年の間に大変大きく変わってしまった。
  • 北東アジアの投資構造
    • 貿易構造に似ている。
    • 中国から北朝鮮への投資が伸びている。韓国から日本への投資よりも、中国から北朝鮮への投資の方が大きい。
    • 大きいのは、中韓の間での相互の投資と、日本から中国への一方通行の投資。
  • 北東アジアにおける人の移動
    • 一番太いのは日韓関係。あわせて400万人を超えている。
    • 韓国から中国へ、日本から中国への人の流れも大きいが、これは一方的な人の流れ。
    • 双方向で大きく交流しているのが日韓の特徴。

日韓関係についての現状認識

  • 色々な見方がある
    • 文世光事件以来、最悪」(韓国高官)
    • 「かつてないほど交流、協力が進展」
  • 世論調査 (今年の6月,7月に読売新聞と韓国日報で共同で実施)
    • 現在の日韓関係
      • 韓国の87%が(どちらかといえば)悪いという認識。
      • 日本も6割近くが(どちらかといえば)悪いと認識。(どちらかといえば)良いと3割が認識。
    • 信頼できるか
      • 韓国の88%の人が日本をあまり信頼できないか全く信頼できない
      • 日本も半分くらいの人は韓国をあまり信頼できないか全く信頼できない。ただ、4割くらいの人は韓国を信頼。
    • 北朝鮮の印象
      • 日韓の間で大きな差
      • 日本では「非常に悪い」が9割
      • 韓国では「非常に悪い」「どちらかといえば悪い」が7割。「非常に良い」「どちらかといえば良い」が3割。
  • 別の世論調査
    • 日本の過去の行為がそれぞれの国の発展に影響しているか?
      • 多くの国では、ほぼ半数が「影響ない」
      • 韓国では75%が「妨げている」
    • 自衛隊の海外派遣
      • ASEANやインドでは賛成多数
      • 韓国では55%が反対
  • 内閣府の世論調査: あなたは韓国に親しみを感じますか?
    • 98年以降上昇
    • 05年は若干低下

首脳の交流、協力の拡がり

首脳の交流・協力は小泉政権の終盤途絶えはしたが、実際はかなりこの5年数ヶ月の間行われていた

  • 小泉総理は6回訪韓
  • シャトル会談も開催
    • 04年7月 済州島
    • 04年12月 指宿(鹿児島県)
    • 05年6月 ソウル
    • (去年の後半できるかなと思ったが、なかなか韓国側が応じず成立しなかった)
  • 05年11月APEC(釜山)の際の会談(30分程度)が最後
    • 歴史問題一色で、雰囲気の良くないものだった。
  • それ以降首脳会談は行われていない
  • その次の首脳会談は安倍総理の9日月曜の韓国訪問
  • 閣僚レベルで、環境、教育、観光、物流、法務などの協力を推進(日中韓の枠組みも)
  • 産業協力 (ソニー/サムソン, 松下/LG, ボーダーフォン/SKテレコム)
  • アジアにおける援助協調の試み
    • 韓国はとうに卒業しドナーに回っていて、日本のJAICAや国際協力銀行(JBIC)とそのカウンターパートの間で、アジアの人作りをしようとか、協調融資をしようという話が出始めている。

ノムヒョン政権

  • 一言で言うと「改革志向の強い政権」
    • 民主化にいたるまでの新米・親日的な政権とは大きく異なる。
    • これを支持したのが386世代(1980年代に大学に通い、1960年代生まれで、ノムヒョン政権誕生時やそれを支えた頃に30代)。
  • 政権の軸: 歴史の清算
    • 戦後の韓国の中の歴史の清算
    • 日帝強占下の歴史の清算
      • 戦前の真相究明のための委員会を作って、日本に協力・関与した人間の事実関係を究明するという作業をいまだに行っている。
    • 国交正常化交渉の外交文書の公開にも踏み切った。
  • 政権の軸: 北朝鮮への「平和繁栄政策」
    • 金大中政権の「太陽政策」の継続
    • 北朝鮮との間に「関与」をしていき、対話によってソフトランディングさせる。
  • 特徴的なのは意思決定のスタイル
    • 世代も変わった
    • 国会議員もずいぶん若返った
    • 大統領府に政権内部に知日派があまりいない
    • 側近で固める政治
    • ⇒ 対日政策に影響
ノムヒョン政権(2)

日韓関係は当初は良いスタートを切った。

  1. 金大中政権が成果を残していた。
    • ワールドカップ共催
    • 98年10月、来日し金大中大統領と小渕総理との間でパートナーシップ宣言という文章を作り、そこで「和解」という言葉を打ち出した。
  2. 小泉外交の成果
    02年9月の北朝鮮訪問
    日本の首相が始めて北朝鮮へ行った。一番重要だったのは拉致問題の解決だったが、北朝鮮に関与と対話をし、国交正常化をしていくという道筋を「平壌宣言」で指し示した。これは韓国のアプローチと軌を一にするものだった。
    歴史共同研究
    金大中時代2001年10月に小泉総理が韓国を訪問したときに、日韓の間で歴史の共同研究をしようということで合意。小此木法学部学部長にもご尽力いただき、昨年五月に第一期の共同歴史研究を終えている。成果物として3000ページほどの報告書が出ている。そして第二期もやっていこうと昨年6月に日韓首脳の間で合意。
    追悼施設
    今は現実的な選択肢ではなくなってしまっているが、01年10月に小泉首相の側から追悼施設という考え方を示しながら「検討する」という話をした。
  3. 日韓友情年・日韓FTA
    • 昨年、国交正常化40年を記念して、日韓友情年として色々な交流行事をした。これを決めたのは小泉・ノムヒョンの東京での首脳会談(03年6月)。
    • 日韓FTAの立ち上げは03年10月バンコクでの首脳会談

当初(1年から1年半)の日韓関係は決して悪くなかったが、そのことが逆に日本への期待感を高めてしまった。

日韓間の懸念事項

  • 基本的な構図は80年代あるいは国交正常化前から変わらないが、3点セットとしてそろってきたのはこの20年の間。
  • 去年の春にまとめて噴出。

    1. 領土 (竹島領有権、(海洋調査、EEZ))
      • 去年の2月に島根県の県議会が、竹島を島根県に編入してから100周年を記念して「竹島の日」を制定する条例案を県議会に提出し、3月に成立。
    2. 歴史教科書
      • 去年の春。中学の歴史教科書の検定結果が出た(4年に一回のこと)。
    3. 靖国神社参拝
      • 大きく言えば歴史認識の問題だが、総理の参拝に象徴化されている。
      • 就任の年から毎年参拝したが、日韓の間で顕在化したのは04年の暮れの指宿での会談以降。むしろ日中の間で持ち上がるのにあわせて日韓の間でも顕在化させた(韓国が強く意識を持つようになった)。

    これらが去年の春からまとめて噴出したことで、日韓関係は少なくとも韓国から見たら大きく後退したと認識された。

  • 北朝鮮問題を巡るアプローチの差
    • 遺骨問題で05年初に顕在化。日朝関係を非常に悪くし、これが韓国との関係にも影響。

「国民への手紙」 (05年03月)

そうしたノムヒョン大統領の考え方が端的に出たのが、去年3月に島根県議会の「竹島の日」条例の制定に対して出した「韓日関係に関する対国民談話」。聞くところによると、大統領自身がパソコンに向かって原稿を打ち、本当に限られた側近(3,4人くらい)にしか事前に相談しなかったそうで、潘基文外交通商部長官にも事前には相談をせずにいきなりウェブサイトに載せたとか。

内容:

  1. 靖国参拝は反省と謝罪の真意を損なう
  2. (竹島領有権の主張は)過去の侵略を否定し、大韓民国の解放を否定する行為
  3. 外交戦争もあり得る(これまでとは違った対応をする)

なかなか一国の指導者が他の国のことや他の国との政策を形容するときに「外交戦争もあり得る」と言うのは、あまり例の無い非常に思い切った発言だと感じた。

ここで領土の問題と歴史の問題がノムヒョン大統領の頭の中で非常に強く連結されてしまったことで、いずれの問題についても出口が難しくなってしまった。竹島の領有権を日本が主張すること自体を過去の侵略の歴史を否定して云々と過去に絡めてられてしまう。ということは、日本は竹島の領有権を主張するべきでないということ。しかし、それは主権の問題であり我々にとって有り得ない選択肢。

こうした形で、ノムヒョン大統領が国民への手紙の中で自らの考えを率直に語ったこと自体が、日本の韓国への認識やノムヒョン大統領への認識に大きく影響。

背景にある要因

  • 期待の裏返しとしての日本への失望
    • 04年7月 (首脳会談 済州島)
      • まだ日韓関係が良かった頃。「冬のソナタ」ブームまっさかり。冒頭20分、小泉総理とノムヒョン大統領の間で「冬のソナタ」と韓流ドラマの話ばかりしていた。
      • 記者会見で日本の記者から質問されて、ノムヒョン大統領は「過去の問題は(自分の在任中はもう)公式に取り上げない」と発言。ただし、これを言ったがために韓国の中では即日慎重論が出てきて、翌日には事実上否定。
      • これが日韓関係の事実上のピーク。それから徐々に低調に。(次の年の首脳会談ではノムヒョン大統領はのっけから歴史認識と教科書問題の話)
    • 12月に指宿で首脳会談の際には、秋口に場所を決めようとしていたとき、鹿児島県でやろうというな感じで伝えたら、韓国サイドから「西郷隆盛さんの出身地ですね」「西郷隆盛といえば征韓論というのを打ち出した人じゃないですか」「場所は変えてもらえませんか」という話が内々に伝わってきたこともあった。
    • その年の12月に防衛大綱の新しいのを打ち出しているが、「これを発表するタイミングと首脳会談のタイミングを考えてくださいね」という話もあった。
    • もう少し前、その年の9月に韓国が80年代にウランの同位体の核の開発に繋がる実験をIAEAに報告せずに行っていたこと(IAEAのルール違反)が発覚。日本の新聞で大きく取り上げられ、日本政府の責任ある人(細田博之官房長官?)も遺憾を表明。これもノムヒョン大統領を刺激。さらに、そのことを大きく否定的に取り上げた新聞が、(ノムヒョン大統領の目からみると)日本の良心的市民層を代表すると思われていた新聞だったことがノムヒョン大統領を余計に刺激。
  • 改革の停滞、支持率の低下 (70%→30%)
  • 北朝鮮問題の影響 (2回の訪朝+平壌宣言 →遺骨問題)

背景にある要因 (2)

もっと大きな要因。 これはノムヒョン政権に特有ではない。

  • 冷戦の終焉
  • 東アジアにおける力の相対化
    • 潘基文長官が事務総長に。これも今でこそ有り得る話。
    • 「脱日」。韓国側の日本に対する依存度が「貿易」でも「投資」でも「留学生の行き先」でも相対的に低下。そういうところが、むしろ日本との関係で緊張を一方的に激化させる。「以前であれば、最後は頼るのは日本なのだから、コブシのおろし方を考えながらコブシを上げたが、今や日本はそこまでの存在ではなくなった」ということを言う人もいる。これはかなり当たっている見方だと思う。
  • ナショナリズムの強まり
    • 06年6月、南北の首脳会談が成功したことで、韓国の北朝鮮との朝鮮戦争のことが一気に風化。
    • ⇒ 「北東アジアのバランサー」(韓国は北東アジアのバランサーとして地域の平和と安定に尽くすべき)
    • ⇒ アメリカに行って「北朝鮮の核開発は理解できる」と発言

06年9月 = 進展

この9月に一連の良い出来事があった。

  • 海洋調査(放射能) : 共同調査の実施に合意
    • 海洋調査を巡る問題でこの春からずいぶんごたごたしていたが、10月に放射能について日韓で共同調査することで合意。お互いのEEZの主張が重なる部分を含む。
  • 戦前の朝鮮半島出身者の遺骨
    • ここ2年くらい日韓の政府で作業を行っていた。
    • 現在日本国内で共同調査を実施中。
  • 日韓交流お祭り : 9月23,24日、ソウル大学路
    • 去年友情年のときにやり、うまくいったので、今年も。今後も続けたい。
  • 首脳電話会談(9月28日)
  • 外相電話会談(10月2日)
  • ⇒ 総理の訪韓(10月9日)、首脳会談開催へ

課題(未来志向の関係へ)

  • 歴史認識をマネージし、外交カードとせず (教科書、共同研究、靖国参拝など)
    • おそらく一番重要。
    • お互いの認識は認識として尊重し、その認識の問題がどうなるかによって外交の成否を測らない。
  • 北東アジアの繁栄、平和を協力して作る
    • 一番大きいのは北朝鮮の問題。また核実験をやるという声明を出して相当緊張が高まっている。この問題をどうするか。それをいかに価値観を共有する国として解決していくのか。
    • 日韓FTA。残念ながら交渉が止まってからほぼ二年。しかし、日韓のFTAなくして東アジア共同体、経済面でのASEANを含む広範な地域との協力は進まない。
  • 領土問題とナショナリズム
    • もう一つの出口のない話。
    • 一番良い解決法はICJに持っていくということだが、お互いが管轄権を認めなければ、ICJは裁判を受理して審議することは出来ない。韓国は過去50年、昭和28年に日本がICJに持っていこうといって拒否してから、一貫して同じ立場。したがって、現実的にはこれは選択肢たりえない。
    • そうすると、時間をかけて、共同で竹島や周辺の漁業権益などを管理できるのかということを、時間をかけて枠組みを作っていくしかない。漁業の問題、調査の問題、そういったことも含めて、共同でどういうことが出来るのか、ということしか始めていくしかない。そういったことをきちんとした枠組みを作るのは非常に時間がかかる。時間がかかることを表す言葉:

      • 易地思之(よくちさじ)=相手の立場になって考える。
      • 結者解之(ちょるちゃへじ)=自分がおかした過ちは自ら解決すべきである。

      胸の中にしまう必要のある韓国の人の考え。

  • 首脳の対話
    • 08年は「和解」から10年
      • 韓国の新しい政権の誕生する年でもある(07年の12月が選挙)。少し今までと違った大統領が出てくるのではないか。
      • そういうなかで日韓の関係を前に進めるような首脳の対話を実現することが大事。
    • 2010年は日韓併合100年
      • 上から下まで今とは少し違う日韓関係になっていることが、未来に向けて歩を進めるに当たって重要。

日朝関係(現状)

  • 「対話と圧力」が基本方針
    • 「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」
  • 諸懸案(拉致問題、核/ミサイル問題)解決のめどなく、関係進展の兆しなし
    • 最後の日朝政府間協議は06年2月に北京で4日間。全く進展なし。
    • 六者会合−05年11月(北京)が最後。
  • 最近のミサイル発射(7月)
    • 北朝鮮に対する国内世論はさらに硬化
  • 10月3日、北朝鮮は核実験実施につき声明
    • 各国が、強い自制、安保理決議の履行を求める (日本は安保理の議長)

北朝鮮(金正日体制)

  • 主体思想、先軍政治
    • 金正日は97年10月8日、党総書記に。
    • 翌年に国防委員長に。
    • 報道によると10月8日が党総書記就任10年なので、この日に核実験をやるという人もいる。予断は出来ないが、そんなに早くはないのではないかという印象を持っている。
  • 不法行為(偽札、麻薬など):年5億ドルの収入 
    • 為替のレートをどうするかによって、予算は1.3億ドルとも、25億ドルとも。
    • 正規の予算に比べて、不法行為による収入が相当多い。
  • 大量破壊兵器の拡散(ミサイル、核、BC)
    • ミサイルによる収入は前段の不法行為ほどではないと思う。
    • ミサイルを売るお客がいなくなってしまった。イランとシリアぐらいじゃないかと思う。パキスタンのような大きな顧客が北朝鮮からミサイルを買いにくくなっている。
  • 人権問題
  • 後継問題
    • 今すぐにこれが起こるということはないと思う。
  • 経済状態
    • 一人当たりのGDPは韓国銀行の推定では数百ドル。おそらくはもっと少なくて、400ドルくらいではないか。
    • グロスのGDPでみて大体2.5兆円くらい。日本の200分の1。
    • 中国との経済的つながり
    • 食糧

小泉総理の訪朝、「平壌宣言」

  • 日朝国交正常化交渉 : 91年1月(平壌)から06年2月(北京)まで13回開催。
  • その間、拉致問題を巡り、たびたび中断(93年から99年までは中断)。
  • 2002年9月 小泉総理訪朝、「平壌宣言」
    • 拉致問題の進展
    • 核・ミサイルに対応
    • 過去の謝罪と精算
      • 戦後処理・経済協力方式 (日韓でやったのと同じ方式)
  • 総理訪朝により、02年10月に拉致被害者5名が帰国。
  • その直後の第12回正常化交渉は頓挫。
  • 再び2年余、協議は途絶える。

小泉総理の再訪朝(04年5月)

国交正常化交渉再開のきっかけになったのは小泉総理の再訪朝。

  • 拉致被害者の子女5名の帰国
    • (ジェンキンス氏一家は7月に帰国)
  • ミサイル発射モラトリアムの延長確認
  • 人道支援の再開
    • (拉致問題で遺骨の問題が出てきたので現在は中断をしている)
  • 平壌宣言が遵守されている限りにおいて、制裁措置は発動しない。
    • (その後ミサイルが打たれたので日本は制裁を発動した)

政府間協議の再開

  • 日朝実務者協議 (04年8月,9月:北京、11月:平壌)
  • 11月平壌では8日間のべ50時間の協議をしたが、北朝鮮側は物的証拠を示さず信頼性に欠ける説明。
  • 遺骨問題(DNA鑑定の結果、横田めぐみさんとは別人のDNAを検出)
    • →04年12月以降、再び没交渉状態に

六者協議プロセス(再開)

第二期ブッシュ政権の中で立ち上がってきた。

  • 94年枠組み合意違反→03年8月、六者協議立ち上げ
  • 05年1月:第2期ブッシュ政権(米国)
    • 北朝鮮に対する基本的姿勢
      • 核問題を対話で平和的に解決
      • 「防御措置」、不法行為あるいは拡散に対して、きちんと対応して、物事が流れないように。
  • 05年7-8月および9月:第4回会合(のべ20日間)
    • 共同声明
      1. 北朝鮮は核放棄
      2. 各国はエネルギー他の支援
      3. 日朝・米朝はそれぞれの二国間関係を懸案を解決して正常化する
  • 11月:第5回会合
  • その後、「金融制裁」(北が反発)とワシントンの強硬姿勢ゆえ、再開のめど立たず。
    • ワシントンも共同声明が出来たということで態度がだいぶ厳しくなった。共同声明が出来る過程で、アメリカの中でも行政府はなかなか一枚岩では無いので、国務省、NSC、色々な考え方があった。共同声明が出来るということであれば、NSCの側から非常に強いステートメントを出すべきだという議論があった。
    • 共同声明がまとまったときの一番のポイントは、北朝鮮に原子炉・軽子炉をどういう形で提供するのかしないのかだった。最終的には共同声明の中では、適当な時期に軽水炉の供与する問題について話し合いをすると書いてある。
    • 日本・アメリカ・韓国は会合の最後に、その適当な時期というのは核の廃棄を北朝鮮がした後だと明確に言った。それに加えて、アメリカ代表は北朝鮮のシステムを容認することは出来ないということまで踏み込んで言った。これは北朝鮮の体制、レジームを転換するということを示唆する言葉なので、大変北朝鮮が強く反発した。
    • そのことと、いわゆる金融制裁と両面で、ものごとはなかなか進んでいない。
  • 06年4月の東京非公式接触も功を奏さず。
    • 北朝鮮側は米朝二国間協議をしたいと主張
    • アメリカの代表は六者会合に出てくるように、それにまずコミットするよう主張
    • 北朝鮮は六者協議に出るというのはあくまでアメリカと話してからという立場
    • アプローチの違いから成果なし

日朝包括並行協議の開催(06年2月, 北京)

  • 六者協議の共同声明合意に至る過程で日朝接触を再開
    • 6者協議の共同声明を作る中で、北朝鮮側から日本側の活用するというか、アメリカとの間での仲介を求める部分もあった。また、アメリカの事を理解するのに日本の言葉を借りるという側面もあった。あるとき、六者会合の終了後に議場の中で日本の代表が北朝鮮の代表にぐるっと囲まれて、代表団全員が日本の代表の言葉を真摯に耳を傾けメモをとっていたということもあった。共同声明という成果をあげるために、何とか日本の力を借りたいという意識が、北朝鮮の代表団にあり、いわばそれと引き換えに日朝協議をやっても良いという話になった。
  • 2月に包括並行協議をした意図: 平壌宣言を作った小泉政権が9月に終わることがその時点でハッキリしていて、その後誰が総理になるか大方予想がついていた。そういう日本の大きな政治の構図の中で、はたして、北朝鮮はどこまで今日朝関係を進める意思があるか、ということをテストする意味でも今年の二月に日朝包括協議をやった。
  • 包括並行協議は(1)拉致問題、(2)安全保障、(3)国交正常化交渉(第14回)の3つの分野で
    • 拉致問題だけでは北朝鮮が反発
    • 日本は国交正常化だけをやるわけにはいかない
    • 日朝関係の道筋を示した日朝平壌宣言はこの3つの問題からなる
  • 平壌宣言の原点に戻って、北朝鮮のその時点での出方を測り試した。
  • しかし、何ら誠意なく拉致問題に進展なし。結果はうまくいかなかった。

北朝鮮のミサイル発射(7月)

  • 日本による制裁発動(7月5日)
  • 国連安保理決議(7月15日)
    • ミサイル発射、六者復帰、拡散防止の制裁措置
  • 10カ国協議(北朝鮮は参加せず)
  • 安保理決議実施の制裁発動(9月19日)
  • 国連総会の際の協議には中、露も不参加。
    • 北朝鮮による安保理決議の履行が大前提
    • 核実験、プロトニウム再処理の動向を注視
    • 中間選挙後の対応(?)

ミサイルの問題については、結果として、制裁発動、安保理決議を招いた。 今の核実験のからみでいうと、ミサイル発射準備の兆候は5月くらいからあった。 そして、6月の後半になって各国が北朝鮮に自制ということを言った。 これは6者会合のメンバー全員(中国も韓国もロシアも)が言った。 5:1という状況があって、外交的にはミサイルを打つということが 全く得にはならないという状態だった。 しかし、北朝鮮はそこでミサイルを撃った。

北朝鮮の交渉

  1. 瀬戸際外交
    • 緊張を高める脅しで関心を示して譲歩を引き出す。
    • 7月のミサイルや今回の核実験実施宣言もそう。
  2. 参加カード(圧力排除(金融制裁)、二国間協議と六者会合)
    • 会合に参加する前に、条件をつけて会合に出る・出ないをやるというやり方。
    • 何とか二国間対話を出来ないかが一番の題目。
  3. 自分からは求めず、まず拒否をして優位に立ち、相手に何かを求めさせる
    • 会合のなかに入れば、もともと向こうは立場が弱いわけで、普通は向こうが何かを求めてくるわけだけど、決してそういうことをやらない。
  4. 体制に特異な面(強硬な軍部や特殊機関)を理由に要求を拒む
  5. そして、以前の交渉成果から動けない
    • 94年枠組み合意(凍結と原子炉)
    • 外交当局は強いmandateを持ってやっているわけではないということ。

今後の対応

  • 「対話と圧力」というアプローチが変わることはない。
    • 六者会合と日朝協議を「車の両輪」としてやっていく。
  • しかし日朝関係だけで物事が動くわけではない。
    • 核の問題、安全保障の問題、これはやはり米朝関係が動く中で、あわせて日朝関係も動くという話だということ。
    • そのことは、今回この2月に日朝の包括協議で成果が出なかったということによって、北朝鮮側の対応というものがよりハッキリしたということではないかと思う。
  • 現状では対話が進展する兆しなし→圧力
    • 北朝鮮が一方的に緊張を高める現状だから、(北朝鮮にとって)不利になる状況を作る。
    • このままでは北朝鮮にとって良い流れはないということを如何に北朝鮮に認識させるか。そのための、制裁措置であり国際的な圧力の輪ということになる。
    • 今は対話で動かないから、圧力をかけて対話が出来る、対話で有利になる状況を作る。
    • 圧力をかけることが目的ではなく最終的には対話を通じた解決。
  • 米国の政策(平和的解決と防御措置)
    • 金融制裁(送金停止、マネロン対策)は一定の効果(2400万ドルの凍結)は上がっているが、体制自体が揺らぐ兆候は見られない。
  • 外的要因(洪水や食料不足)
    • この夏前に洪水があったが想像していたよりは食料に影響しないのではないか。
    • しかし、外的要因が事態を深刻化させ、危機感が高まるという可能性はある。
  • 中国、韓国、(ロシア)=基本的には現状維持を目的
    • 中国:条約、隣国の安定、経済関係
    • 韓国:戦争風化、統一に慎重さ、市場の評価
    • しかし、そういう国であっても、核実験というのをやればそれはレッドラインになるので、大変強い政策をとってくるのではないか。
  • いずれにしても中国がどこまで北朝鮮への影響力を行使する状況が出てくるかが、今のデッドロックから抜け出すには大変大事。

質疑応答

質問
2005年9月ごろ、韓国との竹島の領有の問題でEEZ交渉がかなり難しい問題になっていた。そのとき、外務事務次官の谷内さんが直接韓国にいかれて、向こうの官僚と議論されたが、何故政治家の方でなく外務事務次官だったのか? その辺りの意思決定プロセスについて聞かせていただきたい。
回答

なかなか難しく、また微妙な話。今年の4月に日本の海上保安庁の調査線が出港をするという状況になって、それに韓国が反発して、さあどうするかという時の話だと思う。そのときは最終的には事務次官が出張して交渉してとりあえずの解決に漕ぎ着けた。

色々な要素があったと思うが、「今の韓国と話をするときにどのレベルで話をするのが一番効果的だろうか」ということを我々なりに考え、向こうの事務次官とこっちの事務次官の間ではないかという考えを持った。事務次官の間では、日韓の間では「戦略対話」として半年に一回くらい、日中との間では「総合政策対話」として3ヶ月に一回くらい対話を行っていて、信頼関係というのが次官レベルであった。

韓国の側で、政治的に上がり過ぎると、ただでさえ扱いにくい大統領周辺・青瓦台の影響というのがモロに出てくるということもあり、そういう判断をした。そういうことを日本の中では政治レベル、すなわち外務大臣・安倍官房長官・小泉総理と相談をして「今回は事務レベルでの最高責任者でやってこい」という指示を受けて交渉したという流れ。

質問

北朝鮮が核実験を今後行うという声明を出したが、米軍の発表によると8月ごろに地下核実験の準備をしている兆候があったという情報が伝わり。さらに、10月8日、9日あたりに、早ければ行うのではないかという情報が流れてきている。

7月のミサイル発射実験のときには、日本のインテリジェンス機関の不足ということもあって、情報の伝達、収集、それに基づいた政策決定について、アメリカの情報機関に依存した形で、早急とは言えない状態だった。

今後もし北朝鮮が地下核実験を行ったとしたら、ミサイル実験と違って外部から観測しにくい実験でもあり、そうなった場合に早急な情報収集が可能であるのか。また、どういった政策オプションが用意されているのかということをお伺いしたい。

回答

政策オプションの話については、既に現場から離れているので、答えるのは難しい。

情報収集能力については、日本の情報収集能力と米軍を中心とするアメリカの情報収集能力の間では差はある。しかし、日米間の緊密な情報の共有は行われている。我々が知らなくてはいけない情報については日米間で共有されており、そういう意味では相当迅速な情報収集が行われている。

もちろん、日本が自前で情報収集能力をつけていくという努力はしていけば良いが、それはそんなに短い時間で出来る話ではない。努力はしているが、現在は米軍との共有という関係をうまく使いながら、出来るだけ迅速に情報収集をしていくということで、これは相当程度機能していると考えてよい。

質問
課題という点で「歴史認識をマネージし、外交カードとしない」とおっしゃっていたが、歴史認識をマネージするということで、日本はどのような態度で臨むべきだと思われるか?
回答

小此木先生が先ほどなさったコメントの中で、安倍新政権は予想したよりは柔軟な姿勢を示している。その例として村山談話を継承する、あるいは従軍慰安婦についての河野官房長官談話を継承するということを言われた。

この辺りが一種の日韓あるいは近隣諸国の間での、歴史認識についての決め事だと思う。この決め事というのをどこまで維持しながら、新しい政権のカラー、特色、これは主張する外交ですから、を出していくのかというのがおそらく今の日本の事務当局にも求められている課題だと思う。

そういう中で、戦後の一種の決め事をうまく使いながら、今後へ向けた話として、歴史の共同研究のような、歴史共同研究をするということは、難しい歴史認識の問題について、問題を政治化させず、学問共同体を作ってマネージしていくってことですから、そういう枠組みをまた作って、物事が両方の学者の間できちんと整理された形で議論されていく、という形になれば、今よりはだいぶ落ち着いていくということになるのではないか。

質問
今回安倍総理が10月に訪中して首脳会談をやるということをこないだニュースで見た。その会談を行うまでに、外務省の方というのはどれぐらい前から準備や根回しをしているのか?
回答

良くわからない。

ただ、前の政権の間でも事務次官の対話というのを多分3ヶ月に一回くらい、日韓の間でも半年に一回くらいやっている。日韓よりも日中で特にそうだったと思うが、そういう対話を作る中で「うまく政治のきっかけが作れれば、日中関係をこういう風に進めていこうじゃないか」という話は当然やっている。日韓関係でも、9月の初めにもう一度、谷内が韓国に行ったが、それは海洋調査をどうするかという話だけをしているわけでは当然ない。その時点で、あれは9月の第一週だったと思うが、「じゃあ、新しい政権できますよ。誰が新しい総理誰になるかもう明らかですよ。その中でどういう新しい関係をどう作っていくか」というのは、世の中には当然説明しないけど、そういう意味での仕込みは当然やっている。

もう少し違う言い方をすると、韓国との間でも、中国との間でも、先ほど小此木先生が言われたように、なかなか首脳同士の信頼ではある時点で崩れてしまったところがあるから、そうなった段階から事務当局の間では「次に政治のきっかけが出来たときにどういう風に攻めていくか」というのは想定しながら、色々なやり取りはしている。

コメント(小此木)
歴史の問題とか地政学的な問題とか領土問題とかを、ある一定の幅に収めておくのが指導者の役割。それをやってくれれば官僚ももっと良い仕事が出来るし、市民レベルの交流ももっと進展する。今までここ1,2年はその逆で上が壊したのを一生懸命下で支えている状態だった。それは多分これから元に戻っていくのではないかと思う。

λ. レッドドラゴン

レッド・ドラゴン [DVD](テッド・タリー) を観た。あまり期待していなかったのだけど、結構面白かった。

盲目の女性がケーキを切り分けるとき、最初に中央に楊枝のようなものを刺して、それに添わせるように包丁を入れているのが、へぇと思った。

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