マキャベリほど誤解され安易に利用される思想家もいないだろうとそう言えるぐらいに権力者にもその批判者にも彼の考えは乱用されすぎたように思う。そして、マキャベリの言う『ヴィルトゥ』をどのように訳すかで受け取る印象が変わるので、本格的に理解したい人は様々な邦訳および英語での翻訳のされ方、研究書や論文等を参照したほうが良い。私は『ヴィルトゥ』を「ある結果に対しての操作性を有する主要因となるような性質」のことだと理解したが、専門家ではないので詳しいことはわからない。
彼の全集を読み通し、その後に『君主論』を読み直してみた感想としては、彼は紋切り型のいわゆる『現実主義者』ではないということだろう。今で言えば情報分析官や技術官僚、つまりインテリジェンスやテクノクラートと呼ばれる人々の考え方を思想の形で述べた人物という風に見えたし、特定の思想や信条にこだわるタイプには見えなかった。自分が属する共同体および組織の正統性を確立させ、なおかつ情勢判断や戦略・戦術的提言を行うというパーソナリティを有しているように思えるので、現代で言えばキッシンジャーのような学者でもありながら外交官というような人物に極めて近いのではないか。
以上を前置きとして結論から述べるとすれば、彼の思想は『手段中心主義』という一言に要約されるように感じた。つまり、『結果中心主義』や『現実主義』、『利益中心主義』、『国家主義』といったイメージは私の眼から見て完全な誤解だと思う。
彼は、結果のためなら何でもしていいとは言っていないし、メリットがプラスならそれを最大化せよとも言っていない。国家さえ存続すればよいとも倫理や理想を語らずに現実のみを考慮せよとも言っていない。彼はあくまでも、取りうる手段を全て挙げその中から最も適した手段をとれるような判断と備えをした後に倫理や理想の話をしなさいと忠告しているように思う。要は、キリスト教における天国の法則は動機がすべてなのかもしれないが、われわれが生きているこの現実世界においては結果に影響を与えるのは動機の善し悪しではなく手段の的確さとそのリソースの豊富さにあるという点を彼は強調したかったのではないだろうか。さらに言えば、的確な手段を肯定するのに都合の良い動機を選択することこそが彼の主張の真意のようにも思えてならない。
例えば、日本にとって北朝鮮が脅威であるのは悪意を持っているからでも独裁国家・人知主義の国であるからでもなく、運用可能な大量破壊兵器を保持しているからであり、いくら悪意を持っていようが独裁者であろうが、竹槍しか持っていなければそれは軍事レベルの脅威とは評価されにくい。そして、米国が日本にとって比較的安全な存在であるのは、米国が正義の国であるからでも民主主義・法治国家であるからでもなく、自らが多大な犠牲を払い戦争に勝利し民主主義化した(と米国の政治学では教えられている)地政学的な枢要の地を自らの手で滅ぼしたり手放したりすれば、民主主義国家としての政治的正統性を失い、海洋戦略上の軍事的なプレゼンスを低下させ、最終的には国際社会における影響力という権力のキャスティングボードを失いかねないというリスクを抱えているからである。つまり、純粋な道徳性ではなく、道徳が効果的な手段やリスクに結びついているからこそ考慮しなければならない要素足り得ているのである。
その意味で彼の思想は永田町に溢れる『マキャベリズム』とも違うし、暴君や独裁者、社長族などが己を正当化するために使う『マキャベリアン』、『現実主義者』、といったものとは全く違う。彼はルネサンスの人文主義の教養に満ち満ちた人間であり、彼にとっての理想的な君主像を描いたものが『君主論』である。
具体例を挙げれば、スターリンもヒトラーも毛沢東もマキャベリの目から見れば落第であろう。なにせ『君主論』には、残虐な手段は最初に権力を奪い取るときに一度だけ行使し、あとは民衆から恨まれずに恐れられることによって民衆に権力簒奪の正統性を与えないようにしなければならない、という趣旨のことが書いてあるからである。彼らは愚かにも困るたびに残虐な手段を使い、民衆から反感を買って自分が残虐な手段の対象となった。ゆえに革命から己の権力を守ることに組織力の大半を費さなければならなくなったのである。その帰結としての経済的非効率と軍事・警察・監視国家化による支出の増大によってやがて社会停滞・人口減少・経済崩壊からの政権転覆という結末は避けられない。
いくら愛されるよりも恐れられるほうがいいとは言っても、反感を買えとは『君主論』のどこにも書いてはいない。この点だけでも誤解なく伝われば、『現実主義者』『マキャベリズム』といった言葉に付きまとう、彼の考えとは隔絶したコンセプトに基づく単純化された負のイメージが払拭されるものと思うのだが。
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君主論 (岩波文庫 白 3-1) 文庫 – 1998/6/16
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ルネサンス期イタリアの政治的混乱を辛くも生きたマキアヴェッリ(1469-1527)は外交軍事の実経験と思索のすべてを傾けて,君主たるものが権力をいかに維持・伸長すべきかを説いた.人間と組織に切りこむその犀利な観察と分析は今日なお恐るべき有効性を保っている.カゼッラ版を基に諸本を参照し,厳しい原典批判をへた画期的な新訳.
- ISBN-104003400313
- ISBN-13978-4003400319
- 出版社岩波書店
- 発売日1998/6/16
- 言語日本語
- 本の長さ390ページ
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5 星
ルネサンス期イタリアの政治的混乱期に書かれた書ですが、本書の内容とは別に、人の弱さについて考える
君主論この著者のニッコロ‐マキャベリは、1469年5月3日フィレンツェ生まれだそうです。554年ぐらい前に生まれたこの著者の時代は、ルネサンス期イタリアの政治的混乱期です。ニッコロ‐マキャベリは、君主の権力がいかに維持、伸長させるべきかを説いた偉人です。ですから、現在でもこの君主論を参考したい国のトップがいるのでしょう。読み進めていくうちに、本書の内容とは別に、人の弱さについて考えるようになりました。それはどういうことかというと、人は口で言うほど強くはありません。いくら強いことを言っても、心のどこかに、不安が残っている。この不安が人を人らしくしてくれるのだと考えます。強いばかりが人ではありません。周囲の人の苦しみまでわかるには、自分の心の苦しみを理解し、それに耐えるしなやかさが必要です。そのためには、なにか心の支えになるものが必要になります。いくら金銀財宝を持っていても、心が伴わなければ何もないのと同じです。マキャベリさんは、金銀財宝はないが心の支えになるりっぱな君主論を書き残しました。すごいことですね。他に心の支えになるものは、宗教でしょう。現在でも同じですね。人は、話し合いでなんでも解決できるなんて、幻想に思えてきます。だから、現在でも、この君主論が重宝がられるのでしょう。最後に、この本を日本語に翻訳し、世に出してくれた、河島英昭先生に感謝します。
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2023年11月5日に日本でレビュー済み
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生き方を考えさせられる一冊です。マキャベルの時代の思考と現代がリンクする場合もあったり、参考になりました。
2019年10月10日に日本でレビュー済み
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意味不明です
植民兵という意味不明な単語が出て来てその説明がなにもされないままです。
文章も小難しくして全体像がつかみにくいようにしているし、なにいってるのかがわかりません。
もっと頭よくなりたいです。
植民兵という意味不明な単語が出て来てその説明がなにもされないままです。
文章も小難しくして全体像がつかみにくいようにしているし、なにいってるのかがわかりません。
もっと頭よくなりたいです。
2023年6月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
君主論
この著者のニッコロ‐マキャベリは、1469年5月3日フィレンツェ生まれだそうです。
554年ぐらい前に生まれたこの著者の時代は、ルネサンス期イタリアの政治的混乱期です。
ニッコロ‐マキャベリは、君主の権力がいかに維持、伸長させるべきかを説いた偉人です。
ですから、現在でもこの君主論を参考したい国のトップがいるのでしょう。
読み進めていくうちに、本書の内容とは別に、人の弱さについて考えるようになりました。
それはどういうことかというと、人は口で言うほど強くはありません。いくら強いことを言っても、
心のどこかに、不安が残っている。この不安が人を人らしくしてくれるのだと考えます。
強いばかりが人ではありません。周囲の人の苦しみまでわかるには、自分の心の苦しみを理解し、
それに耐えるしなやかさが必要です。
そのためには、なにか心の支えになるものが必要になります。
いくら金銀財宝を持っていても、心が伴わなければ何もないのと同じです。マキャベリさんは、金銀財宝はないが心の支えになるりっぱな君主論を書き残しました。すごいことですね。
他に心の支えになるものは、宗教でしょう。現在でも同じですね。
人は、話し合いでなんでも解決できるなんて、幻想に思えてきます。だから、現在でも、この君主論が重宝がられるのでしょう。
最後に、この本を日本語に翻訳し、世に出してくれた、河島英昭先生に感謝します。
この著者のニッコロ‐マキャベリは、1469年5月3日フィレンツェ生まれだそうです。
554年ぐらい前に生まれたこの著者の時代は、ルネサンス期イタリアの政治的混乱期です。
ニッコロ‐マキャベリは、君主の権力がいかに維持、伸長させるべきかを説いた偉人です。
ですから、現在でもこの君主論を参考したい国のトップがいるのでしょう。
読み進めていくうちに、本書の内容とは別に、人の弱さについて考えるようになりました。
それはどういうことかというと、人は口で言うほど強くはありません。いくら強いことを言っても、
心のどこかに、不安が残っている。この不安が人を人らしくしてくれるのだと考えます。
強いばかりが人ではありません。周囲の人の苦しみまでわかるには、自分の心の苦しみを理解し、
それに耐えるしなやかさが必要です。
そのためには、なにか心の支えになるものが必要になります。
いくら金銀財宝を持っていても、心が伴わなければ何もないのと同じです。マキャベリさんは、金銀財宝はないが心の支えになるりっぱな君主論を書き残しました。すごいことですね。
他に心の支えになるものは、宗教でしょう。現在でも同じですね。
人は、話し合いでなんでも解決できるなんて、幻想に思えてきます。だから、現在でも、この君主論が重宝がられるのでしょう。
最後に、この本を日本語に翻訳し、世に出してくれた、河島英昭先生に感謝します。

君主論
この著者のニッコロ‐マキャベリは、1469年5月3日フィレンツェ生まれだそうです。
554年ぐらい前に生まれたこの著者の時代は、ルネサンス期イタリアの政治的混乱期です。
ニッコロ‐マキャベリは、君主の権力がいかに維持、伸長させるべきかを説いた偉人です。
ですから、現在でもこの君主論を参考したい国のトップがいるのでしょう。
読み進めていくうちに、本書の内容とは別に、人の弱さについて考えるようになりました。
それはどういうことかというと、人は口で言うほど強くはありません。いくら強いことを言っても、
心のどこかに、不安が残っている。この不安が人を人らしくしてくれるのだと考えます。
強いばかりが人ではありません。周囲の人の苦しみまでわかるには、自分の心の苦しみを理解し、
それに耐えるしなやかさが必要です。
そのためには、なにか心の支えになるものが必要になります。
いくら金銀財宝を持っていても、心が伴わなければ何もないのと同じです。マキャベリさんは、金銀財宝はないが心の支えになるりっぱな君主論を書き残しました。すごいことですね。
他に心の支えになるものは、宗教でしょう。現在でも同じですね。
人は、話し合いでなんでも解決できるなんて、幻想に思えてきます。だから、現在でも、この君主論が重宝がられるのでしょう。
最後に、この本を日本語に翻訳し、世に出してくれた、河島英昭先生に感謝します。
この著者のニッコロ‐マキャベリは、1469年5月3日フィレンツェ生まれだそうです。
554年ぐらい前に生まれたこの著者の時代は、ルネサンス期イタリアの政治的混乱期です。
ニッコロ‐マキャベリは、君主の権力がいかに維持、伸長させるべきかを説いた偉人です。
ですから、現在でもこの君主論を参考したい国のトップがいるのでしょう。
読み進めていくうちに、本書の内容とは別に、人の弱さについて考えるようになりました。
それはどういうことかというと、人は口で言うほど強くはありません。いくら強いことを言っても、
心のどこかに、不安が残っている。この不安が人を人らしくしてくれるのだと考えます。
強いばかりが人ではありません。周囲の人の苦しみまでわかるには、自分の心の苦しみを理解し、
それに耐えるしなやかさが必要です。
そのためには、なにか心の支えになるものが必要になります。
いくら金銀財宝を持っていても、心が伴わなければ何もないのと同じです。マキャベリさんは、金銀財宝はないが心の支えになるりっぱな君主論を書き残しました。すごいことですね。
他に心の支えになるものは、宗教でしょう。現在でも同じですね。
人は、話し合いでなんでも解決できるなんて、幻想に思えてきます。だから、現在でも、この君主論が重宝がられるのでしょう。
最後に、この本を日本語に翻訳し、世に出してくれた、河島英昭先生に感謝します。
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2023年4月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
自分のようなおバカにはハードルが高いと思われたが、試し読みをしたところ想像以上に分かり易かったので購入
ある程度の前提知識は必要だが
注釈もあるので、初心者でも面白く読み進められた
基本はマキャベリが役人時代、ルイ12世にしてやられた経験を元に描かれているので少し偏っている節はあるが、それでも皮肉に満ちた文章はついクスリとさせられてしまう
ある程度の前提知識は必要だが
注釈もあるので、初心者でも面白く読み進められた
基本はマキャベリが役人時代、ルイ12世にしてやられた経験を元に描かれているので少し偏っている節はあるが、それでも皮肉に満ちた文章はついクスリとさせられてしまう
2017年7月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
君主のあり方を帰納的に論じており、大変説得力がある本だと感じています。
ただ本書で出てくるフランスの誰々やイタリアのナントカ卿などの具体例が分からなすぎて、自分の知識のなさに悲しくなりました。
ただ前提知識がない方のために、補足のページが充実しておりますので、ご安心を!
ただ本書で出てくるフランスの誰々やイタリアのナントカ卿などの具体例が分からなすぎて、自分の知識のなさに悲しくなりました。
ただ前提知識がない方のために、補足のページが充実しておりますので、ご安心を!
2020年9月10日に日本でレビュー済み
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交渉のやり方の参考書