向井研発表2 〜 圏論への誘い (その2)

前回は、圏の定義やisomorphismについて説明した。今回はmonomorphism, epimorphism, section, retractionの概念について紹介する。

数式で射を表わす

ここまで有限集合を対象としていたので Internal Diagram を使って 射を図示する事が出来た。無限集合を対象とする場合は、射を数式で表わすことがある。

例:

Rを実数の集合とする。

  1. f: R→R, f(x) = 3x + 7
  2. g: R≧0→R≧0, g(x) = x2
  3. h: R→R, h(x) = x2
  4. k: R→R≧0, k(x) = x2
  5. l: R≧0→R≧0, k(x) = 1 ÷ (x + 1)

クイズ

上の5つの内でisomorphismなのはどれか?

monomorphism, epimorhism, section, retraction

monomorphism

f: A→B が、任意の g,h: X→A について fg=fh ⇒ g=h を満たす場合にfをmonomorphismと呼ぶ。(左簡約可能性)
集合の圏では単射であること。

epimorphism

monomorphismのdualとしてepimorphismが定義される。 f: A→B が、 任意の g,h: B→X について gf=hf ⇒ g=h を満たす場合にfをepimorphismと呼ぶ。(右簡約可能性)
集合の圏では全射であること。

section

f: A→B に対して、f・s = 1B を満たす s: B→A をfのsectionと呼ぶ。

retraction

f: A→B に対して、r・f = 1A を満たす r: B→A をfのretractionと呼ぶ。

いくつかの定理

(1) f: A→B がsection s: B→A とretraction r: B→A を持つとき、s = r = f-1

r = r・1B = r(fs) = (rf)s = 1As = s
∴r = s = f-1

(2) f: A→B が retraction r: B→A を持つとき、fはmonomorphism

fg = fh ⇒ rfg = rfh ⇔ 1A・g = 1A・h ⇒ g=h
∴ fはmonomorphism
[注] 集合の圏では逆も成り立つが、逆は一般には言えない

(3) f: A→B が section s: B→A を持つとき、fはepimorphism

gf = hf ⇒ gfs = hfs ⇔ g・1B = h・1B ⇔ h = g
∴ fはepimorphism
[注] 集合の圏では逆も成り立つが、逆は一般には言えない

(4) fがisomorphismならば、fはepimorphismかつmonomorphism

isomorphismはinverseを持ち、inverseはsectionかつretractionであるので、上の二つの証明よりmonomorphismかつepimorphism

(5) gfがmonomorphismならばfはmonomorphism

対偶を証明する。

fがmonomorphismでない
⇒ 相異なるa,bが存在してfa=fb
⇒ このa,bについてgfa=gfb
⇒ gfはmonomorphismではない

(6) gfがepimorphismならばgはepimorphism

対偶を証明する。

gがepimorphismでない
⇒ 相異なるa,bが存在してag=bg
⇒ このa,bについてagf=bgf
⇒ gfはepimorphismではない

Duality

epimorphismとmonomorphismの定義、sectionとretractionの定義は射の向きが逆になった以外は同一であった。射の向きを逆にしたものはDual(双対)と呼ばれ、圏論ではそれらを対にして考えることが多い。