向井研発表1 〜 圏論への誘い
アブストラクト
<タイトル >
圏論への誘い
<発表者>
酒井政裕
<所属>
総合政策学部2年
<要旨>
近年、圏論的な考え方はますます重要性を増しているが、
数学の他の領域に比べて馴染みが薄いと言わざるを得ない。
今回の発表では、圏の定義を示すと共に、
集合の圏を例としてsection,retraction,inverse,idempotent等の
射の簡単な性質をどのように使う事が出来るかを説明し、
圏論的な考え方に馴染んでもらう。
カテゴリとは何か?
おおざっぱに言うと、数学的な対象(オブジェクト)の集まりと、
その間の射(morphism)の集まりからなる概念。
以下の定義を満たす必要がある。
定義
- 射の合成が定義されて、結合法則を満たす。
f: A→B
g: B→C
h: C→D
h・(g・f) = (h・g)・f
- 任意のオブジェクトに対して、自身への恒等射(identity morphism)が存在する
f: A→B
1A: A→A
1B: B→B
1B・f = f・1A = f
- 異なるペアのオブジェクトの間には同じ射は存在しない。
カテゴリの例
カテゴリの構造は様々な領域に現れる。
カテゴリ論はそれらを統一的に扱う手段を提供する。
- 集合の圏 (Set)
- 集合がオブジェクト、集合間の写像が射、射の合成は写像としての合成
- 位相空間の圏
- 位相空間がオブジェクト、連続写像が射、射の合成は写像としての合成
- 群の圏
- 群がオブジェクト、群の準同型射が射、射の合成は写像としての合成
- アーベル群の圏
- アーベル群がオブジェクト、群の準同型射が射、射の合成は写像としての合成
- 環の圏
- 環がオブジェクト、環の準同型射が射、射の合成は写像としての合成
- R加群の圏
- R加群がオブジェクト、R準同型射が射、射の合成は写像としての合成
- グラフの圏
- グラフがオブジェクト、グラフ準同型射が射。
etc...
以下では主に集合の圏を取り上げる。
集合の圏
集合がオブジェクト、集合間の写像が射、射の合成は写像としての合成。
External diagram と Internal diagram
図
Isomorphism
isomorphismとは?
ある f: X→Y に対して、
f・g = 1Y かつ g・f = 1X となるような g: Y→X が存在する場合、XとYは同型(isomorphic)だといい、「X =~ Y」と書く。
(本当は、「=」の上に「〜」を重ねた記号だが、
この記号はJISには無いのでここでは「=~」で代用する)
また、そのような射fをisomorphismあるいはinversible mapと呼ぶ。gをfのinverseと呼び f-1 と書く。
同型とは、おおざっぱに言って、
オブジェクトが同じ構造を持っている事。
集合の圏では、単に要素数/濃度が同じである事になるが、
他の圏のオブジェクトはより複雑な構造を保存する。
同型はカテゴリ論で最も重要なオブジェクト間の関係である。
inverseのuniquenessの証明
g: B→A, k: B→A が共に f: A→B のinverse だとすると、
g = g・1B = g・(f・k) = (g・f)・k = 1A・k = k
同型が同値関係であることの証明
- 反射律
-
A =~ A を証明する。
1A: A→A について、1A・1A = 1A より、1Aは1Aのinverse
∴A =~ A
- 対称律
-
A=~B → B=~A を証明する。
A=~B より f: A→B にinverse f-1: B→A が存在する。
f・f-1 = 1B と
f-1・f = 1A より、
fはf-1のinverse。
∴ B=~A
- 推移律
-
A=~B, B=~C → A=~C を証明する。
それぞれのisomorphismを f: A→B, g: B→C と置く。
(f-1g-1)(gf) = f-1f = 1A
また、(gf)(f-1g-1) = g・g-1 = 1C
よって、f-1g-1: C→A は gf: A→C のinverse
∴ A=~C
section, retraciton, idempotent
f: A→B とする。
- section
- f・s = 1B を満たす s: B→A をfのsectionと呼ぶ
- retraction
- r・f = 1A を満たす r: B→A をfのretractionと呼ぶ
- inverse
- fのsectionかつretractionであるような射をfのinverseと呼び、f-1と書く
- idempotent
- f・f = f であるような射 f: A→A をidempotentと呼ぶ
クイズ
A = {a,b}, B = {x,y,z} とする。集合の圏で、
- f = {a→x, b→y} であるような f: A→B のretractionは幾つ?
- g = {x→a, y→b, z→b} であるような g: B→A のsectionは幾つ?
- B上のidempotentはどんな写像?
Universal Mapping Property の例
Terminal Object
すべてのオブジェクトからの射がユニークに存在するオブジェクト。通常「1」と書かれる。集合の圏ならば Singleton Set が Terminal Object になる。
このように「すべての〜なオブジェクトに関して、〜のような射が存在する」というような形で定義される性質を Universal Mapping Property と呼ぶ。
Terminal Object の Uniqueness
Termianl Object が複数存在するならば同型である事を証明する。
AとBが共に Terminal Object だとする。
すると、AがTerminal Objectであることから射 f: B→A がユニークに存在する。
同様に、Bが Terminal Object であることから、射 g: A→B がユニークに存在する。
合成して、fg: A→A, gf: B→B が得られる。
AがTerminal Objectであることから、fgはA→Aのユニークな射である。圏の定義から1A: A→A が存在しなければならないので、fg = 1A
同様に、gf = 1B
∴ A=~B
他の Universal Mapping Property の例
- initial object
-
terminal object の定義の射の向きを反転したもので定義される。
すべてのオブジェクトへ射がユニークに存在するオブジェクト。
通常「0」と書かれる。
集合の圏ならば、空集合がこれにあたる。
- product
-
PがAとBのProductであるとは以下のようにして定義される。
projection map p1: P→A と p2: P→B が定義されて、任意のオブジェクトXと、XからAへの射f1とBへの射f2について、 f1 = p1・f, f2 = p2・f となるような射 f: X→P がユニークに定まる。
このようなオブジェクトPをA×Bと書き、このような射fを<f1, f2> と書く。
集合の圏では直積の事。
- coproduct
- sumとも呼ばれる。productの定義の射の向きを反転したもので定義される。集合の圏では直和の事。